大学入試の季節

今は大学の一般入試のたけなわの季節である。大学を退職して大学入試にも関わらなくなると、大学入試の状況にも疎くなる。知り合いの高齢者と雑談していて、「今年孫が大学受験で」というような話の中で、大学入試のことを聞かれることがある。しかし、私は今の入試状況には疎くなっていて、何も答えられない。

最近の新聞では、今の入試時期に合わせて、入試関係の記事が多い。2月15日の朝日新聞朝刊の「耕論」では、「変わる大学入試」というテーマで3人(志水・阪大教授、濱中・早大教授、布瀬川・現役東大生ライター)の意見(オピニオン)が掲載されていた。大学で多様な学生に出会うことが必要で、大学入試も多様化する必要がある。ただ多様化をめざした推薦入試などの総合選抜は、親が教育熱心な裕福層や私学の中高一貫校が有利になる傾向があり、「階級が逆転できる」一般入試も必要という意見であった(オピニオンの2人は教育社会学者だが、3人とも東大という偏りは少し疑問)。

大学入試(選抜)はもともと(明治の時代)、大学の授業を聞いて理解できる能力があるかどうかの資格試験(外人教師の英語が理解できるか等)であったものが、(明治後期以降)入学希望者が増えて選抜をするようになり、その選抜の公平性が問われ、それに適した一般入試(筆記試験)になったといわれる。したがって、それぞれの大学の教育の内容や水準に合わせた学生を、公平性も担保しつつ、選抜をするのが筋であろう。東大が多様性を名目に基礎学力のない学生を入学させて、東大が目指す本来の教育の達成ができなければ元も子もない。

ネットで調べると文部科学省が2022年7~8月に、全国の大学短大を対象に「大学入学者選抜の実態の把握及び分析等に関する調査」を行い、その結果を2023年2月に公開している。(https://www.mext.go.jp/content/20230417-mxt_daigakuc01-000028258_1.pdf)その要点がBtween(https://between.shinken-ad.co.jp/detail/2023/04/nyushicyosa.html)(2023.04)でも紹介されている。文部科学省調査の主な結果を下記に転記しておく。

<報告書の目次;第 1 章 調査概要、第 2 章 大学別調査、第 3 章 入学者選抜の実態 .第 4 章 大学入学共通テストの利用の実態、 第 5 章 個別選抜の実態 .第 6 章 英語資格・検定試験の活用の実態、 第 7 章 記述式問題等の出題の実態 /令和3年7月に「大学入試のあり方に関する検討会議 提言」がなされた。 当該提言においては、実証的なデータやエビデンスに基づく政策決定の重要性が指摘されており、大学入学者選抜方法の多様化・複雑化が進む中で、国として的確な現状分析に基づいて検討を進めるためにも、国内の全大学・短期大学が現在実施している入学者選抜の状況について、最新の動向を網羅的に把握する必要がある。/国内の全大学・短期大学に対し、各大学が実施する令和4年(2022)度大学入学者選抜について、選抜区分ごとに英語資格・検定試験の活用及び記述式問題等の出題状況を含む選抜方法の詳細を把握する。/ 調査対象-全ての大学(国立大学、公立大学、私立大学、公立短期大学、私立短期大学の計 1,071 大学)を対象としている。 回収数は 1,071 大学(76,113 選抜区分)(回収率:100.0%)。/ 調査方法―e メールによる調査票の発送及び回答票回収 / 調査時期―令和4年7月 14 日~令和4年8月 31 日/大学全体の全選抜方法について、一般選抜 43.3%、学校推薦型選抜 26.9%、総合型選抜 16.8%が上位にあがる。/学校推薦型選抜の種類を入学者数別でみると、公募型が国立大学では 98.6%、公立大学では 85.8%、私立大学では 22.1%である。/私立大学において、公募型学校推薦は 53.6%が他校併願可である一方、指定校は 92.3%が専願である。/一般選抜において共通テストを利用して合否判定する選抜区分は、国立大学 94.8%、公立大学で 96.8%、私立大学では 45.6%である。他方、利用しない選抜区分は、国公立とも0%、私立大学で 52.6%である。/英語の資格・検定試験の活用がある選抜区分は、一般選抜で 24.3%、総合型選抜が 33.9%、学校推薦型選抜が 26.0%である。/一般選抜における個別学力検査において、記述式問題を出題している選抜区分の割合は、国立大学では全体の 99.9%、公立大学では 99.9%、私立大学では 40.2%である。>

学生の入学選抜別内訳は、全体で一般選抜43.3%、学校推薦型選抜(指定校+公募) 26.9%、総合型選抜(AO等)16.8%と、一般選抜が5割を切っている。一般選抜を国公立別にみると,国立大学49.1%、公立大学40.9%、私立大学42.7%と、一般選抜以外が、国立大学でも半分も近くいるというのは驚きである(公立大学は私立大学より多い)。/「一般選抜」「総合型選抜」「学校推薦型選抜」以外の選抜は、「専門学科・総合学科卒業生選抜」(全体0.2%),「帰国生徒選抜」(4.3%),「中国引揚者等選抜」(0.1%),「社会人選抜」(4.6%)「その他選抜」(3.8%)で、それで入学する学生の数は少ない。

上記の学生の割合(%)は、実際の学生数の割合とはいえないところを注意する必要があると思う。国立大学の学生の49.1%、公立大学の40 .9% しか、一般選抜で入学していないということは到底考えられない。この調査では、回収数は 1,071 大学(76,113 選抜区分)(回収率:100.0%)とある。この「選抜区分」の説明がどこにも書かれていないが、多分それぞれの大学には大学入試の形態が複数あり、それを「選抜区分」といっているのであろう。/たとえば、全ての大学の「選抜区分」で、一般選抜と学校推薦型選抜と総合型選抜の3つを行っているとすると、その(学生)数は、一般選抜33.3%,学校推薦型選抜33.3%,総合型選抜33.3%とこの調査では表示されるが、実際の学生募集数・合格者数は、国公立大学では、一般選抜で圧倒的に多く、学校推薦型選抜と総合型選抜では少なくなっているはずである。/選抜別の実際の学生数をこの調査ではカウントしていない。なぜ個々の大学に(「選抜区分」別の)選抜形態の様相だけ聞いて、それぞれの選抜方式(一般選抜,学校推薦型選抜,総合型選抜)での、合格ないし入学した学生数を聞かなかったかが疑問である。/さらにこの大規模な調査は文部科学省だからできた貴重なデータの集積からなるが、調査は外部委託で、報告書も委託先の調査会社による単純な集計のみの記載で、できるはずの貴重な分析考察が全くなされていない。だれがこの調査に関わってのかも書かれていない。/東大社会研究所のアーカイブに是非元データを寄贈して、関係者や研究者に公開してほしものである。(あるいはもう公開されているのかもしれないが)