有本章編著『学士課程教育の質保証に関する研究Ⅵ』(2023.3)を読む

有本章先生から、有本章編『学士課程教育の質保証に関する研究Ⅵ』(兵庫大学・兵庫大学短期大学部・高等教育センター、2023年3月)をお送りいただいた。長年の調査研究の集大成の報告書ということで、研究成果のぎっしり詰まった内容で教えられることがたくさんあった。高等教育の歴史や高等教育に関する理論と、主にA大学の実際の大学の現場の組織や、教員の意識や授業の実態、学生の意識や行動の実際を突き合わせて、問題点や実践課題を探り、大学経営や大学に適した教育や指導の方法を提起するという内容で、大学経営者や高等教育研究者にとって示唆的な内容で、後世に残る報告書だと感じた。

有本章教授は、広島大学の新堀通也先生の門下の研究者で、日本教育社会学や日本高等教育学会の会長も務め、世界の高等教育の歴史と理論に精通し、日本の高等教育政策にも関わり、その研究や提言は日本の高等教育の政策に多大な影響を与えてきた方である。私の学生文化研究にも理解を示して下さり、A大学のシンポにも呼んでいただいたことがある。

主に調査対象になったA大学とA短期大学で、教員と学生の意識や行動、数年間にわたる経年比較可能な実証的なデータを蒐集し、それの緻密な分析をしている。(学部生調査は、山崎博敏教授が6年間の経緯を丁寧に追っている)。その実証データからの問題点の指摘、提言は、高等教育研究や教育社会学の理論に裏打ちされていて、説得力がある。これからのA大学やA短大、さらに全国の類似の大学や短大の経営や教育のあり方に関する有本教授の提言には、高等教育研究者の第1人者としての強い情熱と使命観が感じられ、感銘を受ける。

この有本教授らのA大学とA短大を主な事例とした研究を読んで、私もこれまで専任や準専任として勤めてきた大学(武蔵大学、上智大学、敬愛大学)のことを、その大学の歴史、建学の精神、偏差値、学部、地域などの様々な要因も考察し、教員や学生の実態に即して、分析考察したくなった(実際は、私の年齢と研究意欲のなさのせいで無理だと思うが)。有本教授の書かれていることは納得でき教えられたことが多いが、私の感じでは少し違うなと感じることもあった。それについては整理して、いつか有本先生と議論してみたい。