リアルとバーチャアル

私は古い人間なので、「リアルとバーチュアルのどちらがいいか」と聞かれたら「リアル」と答えると思う。また(バーチアルな)来世も信じていないので(?)、現世の「リアル」を大切にしたいと思う。しかし、ことはそんなに単純ではないかもしれない。

「IDE・現代の高等教育」の今年の1月号の特集は「ニュー・ノーマルをどう築くか」で、大学の学長たちが、自分の大学の新型コロナ禍の大学運営を論じている。それを読むと実体験と深い学問的見識に基づくものが多く、読み応えがある。巻頭論稿の奥田潔「遠隔地にある農畜産系大学の現在と将来」などは、各大学がモデルにすべきことが丁寧に書かれていて感心した。

また畑山浩昭「今後のキャンパス。コミュニティ、メンバシップ」には、「リアル・キャンパス」の他に「バーチャル・キャンパス」というものが出来つつあり、これも大切だと書かれていて、いろいろ考えさせられた。鈴木典比古・国際教養大学学長は、世界を駆け巡る「オンラインによる出前(授業)」が、大学のあり方を変えると述べている。

 よく考えてみると、自分のリアルな体験と思っていたことが、自分の思い込みのバーチャルなもの(現実ではなく想像に過ぎないもの)だったかもしれない。恋愛や失恋も、自分の思い込み(想像)に過ぎないものが多い。だからと言って価値が低いものという訳ではない。恋愛ドラマのヒロインと相手役は、恋愛を演技として(バーチュアルに)演じるのであるが、後から振りかえって、自分のリアルな恋愛や結婚と比べ、演技したバーチュアルなドラマの世界は、価値低いものと言えないのではないかと思う。

SNSで結ばれるアイドルや歌手のファンのコミュニティはバーチュアルであるが、結びつきが強い。写真家の藤原新也はCAT WALKというバーチュアルなコミュニティを作り、そこの会員たちに一体感が生まれている。大学も、リアルなコミュニティだけに頼るのではなく、バーチュアルなコミュニティを工夫して作り、学生の学びと体験と一体感を作り運営していく時代ではないのか。それも世界規模で。