教員不足、教職志願者の減少について

今の教育界の話題の1つは、教員不足、教員志願者の減少、教員採用試験の倍率の低下、その背景にある教員の仕事環境の過酷さなどである。NHK digital 230212(日)「#学校教育を考える」(https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0012/topic032.html)では、下記のように説明されている(一部抜粋)

全国の学校現場で深刻になっている「教員不足」/ その背景のひとつに、教員採用試験の倍率の低下、教員を志す人が減少しているという指摘があります。去年、全国で採用された公立の小中学校や高校などの教員の採用倍率は3.7倍で過去最低となり、このうち小学校の採用倍率は2.5倍と、4年連続で過去最低となったことが文部科学省の調査で分かっています。/ 少子化の時代、なぜ「教員不足」が起きる?そもそもなぜ教員不足が起きているのか。国や自治体の調査によると、近年、1970年代前半に生まれた第2次ベビーブーム(団塊ジュニア)世代の就学に合わせて大量採用された教員が、定年を迎えているためです。/

朝日新聞の編集委員の氏岡真弓氏は、教育学部の学生の進路意識を紹介している。(2023年2月17日、一部抜粋)。

 先生を目指して大学の教育学部に入りながら、教職を選ばない。そんな学生たちを取材するようになって3年半になる。/ いつ、どんなきっかけで先生になりたいと思ったかから話してもらう。あこがれの先生の話がほとんどだ。「授業が楽しくて世界がどんどん広がっていった」 そうして夢を膨らませて教育学部に入った後、多くの学生が現役教員のSNSへの投稿で「部活で土日なし」「事務仕事と授業準備で夜11時まで職員室」といった現場の厳しさを知る。 教育実習で子どもに接すると「先生っていいな」と思う。だが実習はSNSの内容が事実だと確認する場でもある。そして揺れる。/ なぜ教員になるのをやめたのか。多くの学生が挙げるのが、やはり働く環境の厳しさだ。「ずっと朝早くから深夜まで働くと思うと引いてしまう」。そして彼らは口をそろえるのだ。「私たちは先生の魅力はわかっている。でも、それを上回る不安がある」/ これまで48人に取材し、30人が民間企業に、2人が地元の役所に就職。とりあえず教職大学院を選んだのは12人だ。現役の4人はまだ迷っている。働き方改革の進み具合や教員の給与制度の見直しの行方も見てから決めたいのだという。

このような教員志望の減少に対して、各都道府県の教育委員会がしていることは、教職の魅力を若い人たちにアピールすることが多い。「静岡県では10年以上前から、中高生向けのセミナーを開催。若手の教員をパネリストにディスカッションを行ったり、一日をどんな風に過ごしているか話したりして、職業としての教員を知ってもらおうとしている。」(前掲 NHK)。福井県では、YouTube動画で教員の魅力をアピールしている。“恩師と教え子の対談”や“県外から転職して福井県の教員になった人”などを動画で紹介し、福井県で教員として働く魅力を訴えている。

この教員不足、教員志望者の減少、教員採用試験の倍率の低下などは、さまざまな要因(教員の年齢構成の偏り、教員定員の決め方、学級担任制、産休教員の補充、部活動の指導、IT化等)が背景にある。学生に教職の魅力を伝えることも必要だが、それだけでは解決できないであろう。教職の待遇改善、できる教育活動(部活動等)の外部化等と並んで、社会人の教職への参入をし易くする必要があるように思う。実際、社会に出てから自分は教員向きだと思う人、子育てを終わって教員志望の人で、教員免許を持っていない人はかなりいると思う。そのような人が、教員という職業を試してみる機会をつくるべきだと思う(仮免許などを拡大して)。さらに今の教員免許修得に必要な教職科目は多すぎると思う。昔は専門科目の他に14単位程度(教育原理4、教育心理4,教科教育法4、教育実習2)取れば教職免許が取得できたが、今は30単位以上が必要ではないのか。これでは教員志望者や資格者が減っても仕方がない。

NHK朝ドラの恋愛(舞と貴司)を、「欲望の三角形」から考える。

 今のNHKの朝ドラ「舞いあがれ」を見ていて、R.ジラールの「欲望の模倣論(三角形)」を思い出した。それは、人の欲望は、自分の中から自発的に出てくるものではなく、他人の欲望を模倣するものだというものである。(Girard.R,吉田幸男訳『欲望の現象学』法政大学出版会,1971)。*

 貴司(赤楚衛二)が、幼馴染の舞(福原遥)を好きだと感じるのは、舞の付き合いの相手を紹介された時である。またが貴司を好きと感じたのは、ライバルの史子(八木莉可子)が貴司に寄り添うようになってからである。

このように、人の欲望は模倣されるものだというのがジラールの説で、それを、作田啓一は夏目漱石の『こころ』の先生と尊敬する先輩Kとお嬢さんの3角関係(先生は、Kがお嬢さんが好きという欲望を模倣した)で分析している(『個人主義の運命‐近代小説と社会学』岩波新書,1981,pp.134-146)。藤村正之は、漫画「タッチ」の和也と達也と南の三角関係を、この図式で説明している(『<生>の社会学』東京大学出版会』2008,pp.171-199)

朝ドラでは、この「欲望の模倣論」ではなく、普通の、本人の本当の気持ちが何であるかがやっとわっかた(自覚した)として描いているが、このジラールの欲望の模倣論(三角形)の視点も取り入れてみると、さらに面白く感じるのではないかと思う。

*「人間の欲望は三角形的、換言すれば「模倣的」である。すなわち、欲望を持つ主体(S)とその欲望の対象となるもの(O)のあいだには、常に媒介者(M)が存在する。私たちがあるものを欲するのは、それがそれ自体として望ましいものであるためではなく、他者がそれを欲しているからであり、他者がそれを望ましいものとして示すからである」(西永 25頁)https://ha2.seikyou.ne.jp/home/Takeshi.Usuba/sociology/resume/sg080602.pdf#:~:text=%E3%80%80%E3%80%8C%E4%BA%BA%E9%96%93%E3%81%AE%E6%AC%B2%E6%9C%9B%E3%81%AF,%E8%A5%BF%E6%B0%B8%E3%80%8025%E9%A0%81%EF%BC%89%E3%80%82

「教える」ということを掘り下げる

公益財団法人「中央教育研究所」の研究報告NO99,『自律した学習者を育てる言語教育の探求12』 (平成5年1月)が発刊され、WEBで読むことができる。鳥飼玖美子先生(立教大学名誉教授)が研究代表の報告書で、7名の研究者の論稿が掲載されている。(https://chu-ken.jp/pdf/kanko99.pdf

内容は、寺崎昌男先生(東京大学名誉教授)の「『教える』ことを掘り下げる」という論考に対して、研究メンバーが、言語教育や英語教育の観点からコメントしたもので、大変興味深い内容になっている(それをこの分野に素人の私が紹介することはできないので、直接読んでほしい)。

また寺崎昌男先生の論稿とそれへの補いの講話の記録も、興味深いもので、教育史や高等教育が専門の寺崎先生が、「教える」という教育学の原点の問題に、実際の教育現場の実践などを例に引きながら、わかりやすく、また深く考察されているので、感銘を受ける(これも、私が説明役では役不足なので、直接読んでほしい)。

ここでは、寺崎先生が、論考の最初に紹介している哲学者W.A. ウォ―ドのエッセイの章句を転載しておこう。寺崎先生は、このウォ―ドの言葉を単純に称賛しているわけではない。先生の論考は、ウォ―ドの言葉を教える側から説明しているとも、批判しているとも解釈できる。この言葉を手掛かりに、「教える者」の側に立って、教え方の深みを具体的に例示している。さらにそれにコメントする研究者の立場はいろいろで、興味深い。

(原文)The mediocre teacher tells / The good teacher explains / The superior teacher demonstrates / The great teacher inspires/ (Foundations of Faith, Droke House, 1970)

(寺崎訳) どこにでもいる普通の教師は,ただ話して聞かせる  / よい教師は,丁寧に説明する  / 優れた教師は,自分でやって見せる  / 偉大な教師は,相手の心に火をつける

春はまだ遠い

南房総他で、もう春の菜の花が咲いているというニュースを聞いた。例年3月上旬に菜の花が満開になっていると思うが、今年はどうなのだろうと家の近くの花島公園に出かけた(車で10分、2月12日)。残念ながら、菜の花はまだ10センチ程度の苗状態で、花はほとんど見ることができなかった。公園の梅も、まだ2分咲き程度で鑑賞できるまでの状態ではない。池にサギ(鳥)がいて、それを見ることができたのが今回の唯一の収穫。春はまだ遠い。

日本のテレビドラマ「エルピス」をみる

ネットフリクスの今日本で人気のドラマで、「エルピスー希望、あるいは災いー」が紹介されていた。見始めたら面白く、2日間で最後(10話)まで見てしまった。それは韓国ドラマではなく日本のドラマで、フジテレビ系列の2022年10月24日 – 12月26日に放送されたものである。ネットフリクス他でも全10話が、コマーシャルなしで一気に見ることができる。テレビ局のニュースキャスター(長澤まさみ主演)とデレクター(眞栄田郷敦主演)が、政治の圧力に屈せず事実をどこまで放送できるかを悩むドラマで、日本のドラマとしては、とてもよく出来たドラマだと感じた。韓国ドラマの「秘密の森」と「ピノキオ」を合わせたドラマという感じであった。

ネットでみるといろいろな解説や感想が書かれているが、3つほど転載しておく。最初は、長澤まさみファンの一女性の感想(一部掲載)。

<サトーの日記 /全10話のドラマです。SNSでも話題になってましたね。普段はドラマより経済新聞が好きそうな方々もおもしろい!と言っていたので、興味がわいて見てみました。/久々に好きな長澤まさみさんの演技が見られる!と、ワクワクしながら視聴しました。/ストーリーは、ザックリいうとスキャンダルでスター街道を外れたアナウンサー浅川恵那と自分の過去を直視できないまま大人になったエリート青年、岸本拓朗がふとしたことから冤罪事件を追っていく物語です。/テンポもよかったです。展開は速いんですが、速すぎるということはなくてこんなに盛りだくさんでいいの?っていう充実感がありました。/面白かった理由は扱ってる題材とかストーリーとか脚本とかキャラクターとかいろいろあると思うんですけど、個人的には、長澤さんの演技がとてもよかったです。長澤さんの役はあの年代の働いている女性がリアルに感じている考えていることがそのまんま出ていると思うんですよね。大げさすぎず、静かに表情だけで演技するシーンも多くてとても良かったですね。長澤さんは今の日本で最強クラスの女優さんじゃないかなと思うんですよね。/このドラマで扱われている問題は冤罪を意図的に生じさせる組織の体制だったり、政治とカネの癒着だったり、大洋テレビ社内で横行するセクハラやパワハラ発言だったりいろいろあると思うんですけど、その組織のカラーにどこまで染まるかとか、どこまで許容するかとか、どこで自分を取り戻すかとかは,選べると思う。/ミステリーとかサスペンスとか逆転劇とかが好きな方は楽しめると思います。長澤まさみさんも、他の俳優さんもいい演技をしています。> (https://fortunamajor.hatenablog.com/entry/2023/02/10/063000

2番目に、「脚本家・渡辺あやが『エルピス』に込めた思い」のコメントを一部転載しておく。

「組織というものは一枚岩ではなく、忖度してしまう人たちもいるけれど、戦おうとする人もいるし、真実を追求したいと思っている人たちもいるのではないか。そういう人たちがいるとしたら、今、どういう振る舞いをするのだろうということをドラマにして自分で観てみたかったっていう感じですね。」「世の中にすごい悪の黒幕がいるというよりは、それこそ善人たちが忖度しあったり何かを押し付け合ったりし、その場しのぎで何かをしてしまったがために、たいへんなことになる。多くの問題は重層的な構造になっている気がします。」「人間って、たった1人でも信頼できる人がいれば、希望を持てると思うんですよ。」「(長澤さんのは)すごく良くて、とても感受性の豊かな人だなと思いましたね。感情性が豊かだからこそ、いろんな表情を見せてくれるし、まだ見せたことのない表情や聞いたことのない声もあるんじゃないかなと。あれだけのキャリアを持ちながら、そんな予感をさせる女優さん」(https://realsound.jp/movie/2022/10/post-1167351_2.html

3番目にドラマのプロデューサーの佐野亜裕美(1982年生まれ。東大教養学部表象文化論専攻卒業)のインタビューもWEBに載っているので転載する。

「主役は長澤まさみさんを想定して、脚本が3話できた段階でオファーしたら、長澤さんからぜひ出たいとお返事があったんです。放送は決まらない。宙に浮いた状態が続きましたが、このドラマは絶対に面白い、絶対に放送する、と思い続けました。6年間、「エルピス」のことを忘れたことは一瞬もなかったです。」「(脚本家の渡辺あやさんは)私の第一印象を「しょぼくれた柴犬が来た」と言っています。その頃、会社では組織の環境に合わず、つらかった。現場の仕事が評価されず、自信もなかった。そんな私にプロデューサーとして何がしたいのか、あなたは何者なのかと聞いてきた。心に言葉が刺さり、涙がポロポロ出たことも。聞くだけでなく叱咤激励してくれた。 その結果、自分の価値は自分で決めるのだと思えるようになったのです。「エルピス」は、長澤まさみさんが演じる人気が落ち目の女性アナウンサー恵那と真栄田郷敦さん演じる若手ディレクター拓朗、「価値がない」と他者からレッテルを貼られた主人公2人が自分の価値を自分で認めていく物語です。主人公たちには私自身の姿が投影されているといえるかもしれません。」(https://digital.asahi.com/articles/ASQDC3FKGQD6UCVL02V.html?iref=pc_rellink_03)

追記 武井 保之「ドラマ「エルピス」圧倒的な重厚感を生む3つの点―熱量が伝わる脚本や、長澤まさみの熱演も話題」(東洋経済2022/11/07)にも同様の感想が綴られている。(https://toyokeizai.net/articles/-/631221