これからの英語教育について

 鳥飼玖美子先生(立教大学名誉教授)より、最新のご著書『英語教育の危機』(ちくま新書(2019年1月)をお送りいただいた。
ご著書の中では、新学習指導要領の内容が批判的に検討され、「英語の授業で日本語の使用禁止」「センター試験廃止で入試が民間試験に」、小学校英語の教員の力量などの問題が、過去の英語教育をめぐる論争や言語学や異文化コミュニケーションなどの理論から、詳細に論じられている。
内容がとても重厚で、読み応えがあり、いろいろなことを考えさせられた。
英語や英語教育に関する論争の背後には、このようなさまざまな理論や考え方の相違があることをはじめて知った。
とりわけ授業を英語でやることのことの是非や、大学入試の外部試験の是非、同時通訳、イマ―ジョン教育、異文化コミュニケーションのことをいろいろ考えさせられた。
 英語をどのように子どもたちに教えるかは、とてもいろいろなことを考量しなければならない問題で、日本人の英語コンプレックスや体験からだけ考えることの危険性を感じた。

敬愛大学 教育課程論 講義メモ まとめと補足

今日(1月26日)は、この教育課程論の最後の授業なので、まとめと補足を行います。次のような5つのことを話します。
最初に、これまでのリアクションをお返しします。この授業では、最初から最後まで、各回とも講義内容に即した質問の答えを皆さんが書くという形(リアクションの記入)で進めてきました。これがよかったかどうかわからないのですが、私の話を自由に聞くというよりは、私が発する質問のような観点で話しを聞いてくださいと指示するもので、焦点は絞りやすかったと思いますが、私に誘導されているようで自由度が少なかったかもしれません。
前回の講義のリアクションに関しても、代表的な例をプリントで示しました。前回の講義の内容を思い出し、自分のリアクションと比べ、理解の足りなかった点を補ってください。
次にこれまでのリアクションを見ながら、この半年間で学んだことを振り返って下さい。とりわけ、1回から3回までが、教育課程の中核の部分を扱っています。つまり
第1回(9月29日) 教育課程の定義、
第2回(10月6日) 学習指導要領の変遷、
第3回(10月13日)現代求められる能力―生きる力、キーコンピテンシー、21世紀型能力。
それ以外は、教育課程関連ということで、いろいろなことを取り上げました。
 時代の変化と教育(10月27日)、社会格差と教育(11月10日)、青年期の社会学(11月17日),ジェンダーと教育(11月21日)、多文化教育 (12月1日、8日、15日)、デジタル教科書(12月22日)、教員採用試験他(1月19日)です。
第3に補足で、3つのことを説明したいと思います。
1つは、教育課程の歴史的変遷の補足です。学習指導要領の歴史的変遷に関しては、第2回の時に説明していますが、もう少し広い教育についての考え方の歴史的変遷です。大きく2つの流れがあり、一つは生活との結びつきを考えた教育内容、もう一つは科学との結びつきを考えた教育内容です。前者は、生活綴り方運動が一つの典型で、もう一つは仮説実験授業というものが、配布した資料では例に挙がっています。「山びこ学校」(無着成恭)や水に木片を浮かべた時の重さの変化に関する実験授業の例などが説明されています。
現在は文部科学省の定めた学習指導要領に従えばいいという風潮になっていますが、かっては教師はいろいろ工夫して、地域や子どもの特性に根ざしたものや、科学的な実験(仮説―実験―理論化)を行い、教育課程が編成されていたという歴史があり、それらは今も大事だということを理解していただきたいと思います。
補足の2つ目は、東京都の教育委委員会が、これから教職をめざす学生用につくっているパンフレットがあり、その中から重要なところだけ、抜粋しましたので見てください。「学校の一日」「教科指導」「大学生活の送り方(そこで身に付けるべきもの)」「教員採用試験」のことが、丁寧に説明されています。小学校の教育現場やそこで教師に要求される資質や能力、その為に大学生活をどのように送ればいいかということまで書かれています。教育委員会が学生生活の送り方と獲得すべき能力(課題解決能力、コミュニケーション能力、統率力、組織貢献力)まで言及するのは少しおせっかいという気もしますが、参考にはなるでしょう。
補足の3つ目は、教育方法について書かれたもので、長年の教師の経験から生み出されたものです。教室での「4分6の構え」とか教室での「立つべき位置」とか「机間巡視のコース」とか具体的な方法が書かれています。教育方法は教育内容とも密接に結びついています。(資料:大西忠治『授業つくりの上達法』)。
教育というのは、教育実践と結びついているので、理論的にすっきりとせず、学問としてもあまり発達していなくて、素人でもわかりできると思われ、学問の社会的地位は低いのですが、実は教育は大変複雑で、教育学は奥深いものだということを理解し、皆さんはそのような分野を学んでいることに誇りをもってほしいと思います。

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千葉でも雪

東京や他の地域に比べると降雪量は少なかったようだが、千葉でも雪は22日の夕方から降りはじめ朝には20センチほど積もる。
犬や小さい子どもは、珍しい雪に大喜び。
家の前の通学路の雪かきをするがあまり子どもが通らない。休校にはなっていないようだが、インフルエンザが流行して学級閉鎖になっているクラスが多い様子。それに、通る子どもも雪をかいたところより雪のあるところを嬉しそうに歩いている。

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一生に一度のこと

ある人と話していて、「自分の時の卒業式は学生運動のために中止になった」という話をしたら、「中止になってどのような気持ちでしたとか」と聞かれびっくりした。その質問のニアンスは、一生に一度の卒業式なのにそれが中止になって、さぞがっかりしたことでしょう、というものであった。
「一生に一度」という言葉は、時々聞く。一生に一度の「成人式(の晴れ着)」「卒業式」「結婚式」など。
「一生に一度」という言葉が自分はピンとこない。卒業式にしろ、成人式にしろ結婚式にしろ、その人にとっては一生に一度の貴重な行事かもしれないが、他の多くの人にとっては日常のありふれた出来事であり、自分の思い(都合)を他の人に押し付けるのはどうかと思う。
また、そのような行事を貴重な思い出として生きるということは、現在や未来に向かわずに、過去の思い出を大切に生きるということであり、あまり前向きでない。

ただ、通過儀礼(rite of passage)(=出生、成人、結婚、死などの人間が成長していく過程で、次なる段階の期間に新しい意味を付与する儀礼。人生儀礼、イニシエーション)の意義を否定するつもりはない。

それよりも「一期一会」ということは大切にしたいと思う。一期一会とは、「あなたとこうして出会っているこの時間は、二度と巡っては来ないたった一度きりのものです。だから、この一瞬を大切に(したい)」(*)という思いである。
日常のどのような出会いも出来事も、一生に一度しか起こらないかけがえのないものである。そのように現在のことを大切にしたい。

* 一期一会(いちごいちえ)とは、茶道に由来する日本のことわざ・四字熟語。茶会に臨む際には、その機会は二度と繰り返されることのない、一生に一度の出会いであるということを心得て、亭主・客ともに互いに誠意を尽くす心構えを意味する。茶会に限らず、広く「あなたとこうして出会っているこの時間は、二度と巡っては来ないたった一度きりのものです。だから、この一瞬を大切に思い、今出来る最高のおもてなしをしましょう」という含意で用いられ、さらに、もしかしたら二度とは会えないかもしれないという覚悟で人には接しなさい」と戒める言葉。一生に一度だけの機会そのものを指す語としても用いられる。(https://ja.wikipedia.org/wiki/一期一会)

大学の教育の質を何で計るのか

朝日新聞の1月17日朝刊「私立大学が探る未来像」で、金子元久氏の「中小大学の努力、もっと評価を」という趣旨の次のようなコメントが載っている。

<今回の調査(ひらく 日本の大学」)は、ST比が低い、中小規模の地方大学が積極的に、教育面の改善に取り組んでいることを明らかにした。地方の中小大学の多くは定員を満たすことに苦しんでいるが、そんな大学こそ元気を出してほしい。ST比が低く、少人数だからこそできる取り組みを一生懸命やることは、学生にとっても、社会にとっても大切だ。中小大学の地道な努力を社会はもっと評価すべきではないか。>

ST値とは、学生数/教員数(専任)で,国公立や私立でも小規模大学で小さく、きめ細かい教育や学生に対する指導がなされている指標とされる。
このST値があまり注目されず、それが学生の選抜(入学)と結びつていないのが、日本の大学の問題と金子氏は指摘する。
確かに、朝日新聞の「大学サーチくん」*で調べると、ST値が低い大学が偏差値の高くなるわけではない(たとえば文学部系ST値は、偏差値の高い順に上智大学37.3 同志社大学43.9、、敬愛大学23.5)。敬愛大学のようなST値の低い小規模の地方大学の教員の努力を評価してほしいものである。

ただこのST値は教員数を専任教員の数でカウントしているのに多少の問題を感じる。
実際の日本の大学の授業は非常勤講師が担当する割合がかなり高い。非常勤講師の授業が専任教員の授業より熱心さや質で劣るわけではない。かえって「よそだから自分の大学の授業以上に熱心にやろう」と思う教員や若く熱心な非常勤講師も多くいるはずである。
したがって、学生と教員の数から教育の質を測るのなら、各授業の学生数の平均ないし、小規模授業やマンモス授業の比率を出し、それを指標にすべきではないのかと思う。

(*朝日新聞デジタルでは、受験生や高校関係者が関心のある大学について調べられる検索サービス「大学サーチくん」のデータを更新しました。各大学の学部ごとのST比や初年度納入金などのほか、今回からは奨学金や授業料減免制度など経済的支援と、その大学ならではの特徴的な教育の取り組みも見られるようになりました。教育ページのアイコンをクリックすると、検索画面が開きます。URL(http://www.asahi.com/edu/hiraku/search/)を入力しても同じページが見られます。「ひらく 日本の大学」のページ(http://www.asahi.com/edu/hiraku/)では、ST比と「きめ細かい教育」の詳報のほか、各大学が重視している役割などについての調査結果もご覧いただけます。)