藤原新也『メメント・ヴィータ』を読む

藤原新也近著『メメント・ヴィータ』(双葉社、2025)には、いくつか心に残るフレーズがある。それを書き留めておきたい。

「アメリカには移民たちが幌馬車で東から西へ移動していった歴史がある。幌馬車で全米を旅した祖先のDNAみたいなものが、彼らの中のどこかに残っている。貯めたお金を投入して、白髪になったご夫婦がモーターホームを走らせあちこちを旅するという風景が展開されるいるわけです」(323頁)。

「ある老人は『息子が自分より先に逝った』と話すんです。息子が他界したのになぜ自分が生きているのかという不条理を感じながらノマドの生活を送っている。だから、自分に誰かを助けられることがあったら助けたり、人に優しくしたりすることによって、自分の心の傷が癒されているんだという話をする」(330頁)。

「僕もこれまでいろいろな旅をしてきましたが、結局旅にしても人生にしても1つの成果とか達成があるとするなら、金とか地位とか名誉より、人生の中においてどれだけいいシーンに出会ったかにということに尽きるんです。そのシーンの積み重ねがどれくらいあるか。それは人とのまじわりでもいいんだけど、どれだけのシーンに出会えたか。それが人生の中での1つの達成だと思う」(331頁)。

自分のDNA、人を助けることで自分の傷を癒す、いいシーンとの出会い―これらのことを自分事としていろいろ考えさせられる。