カズオ・イシグロ 『日の名残り』を読む。

カズオ・イシグロの著作に関しては、『日の名残り』が最高傑作という人が多い。そこで私も読んでみた。『わたくしを離さないで』を読むのに1か月かかったが、今回は3日ほどで読み終わった。
イギリスの執事の話と聞いていたので、イギリスの貴族に仕える模範的な執事の話であり、そこには伝統的な英国貴族の高い徳と今は失われた執事という仕事の品位が描かれている小説と思い読みすすんだ。最初の方はそんな感じであったが、後半は必ずしもそんな感じではない。逆に伝統的な英国貴族とそれを無批判に信奉する執事に疑いの目を向けるような内容としても読めると思った。(早川文庫の丸谷才一の「信頼できない語り手」という解説参照)

ネットでみると、いろいろな感想や解説が寄せられている。いくつかを転載する。

<読んでいる間、姿勢を正さずにはいられませんでした。英国紳士に仕える1人の執事の佇まいに感動しました。時代の変化を迎えつつある1930年代のイギリスでは、徐々に戦争のニオイが色濃くなりつつあります。逼迫した情勢が続きますが、執事のスティーブンは「品格」を保ち、ご主人により良いサービスを提供することを任務とするのです。私的な感情は一切受け付けず、威厳を極め続けた偉大なる執事の姿に、圧倒的な忠誠心を感じます。父の死や同僚の結婚にも一切動揺せず、規律を貫き続けた信念に、英国執事の究極のサービス精神を学びました。>(https://bookmeter.com/books/567297)

<執事としての品格というものを常に考え、それをしっかりと行動に表してた、まさに執事の鏡だったスティーブンス。
しかし、そうしたプロ意識が主人に物申すことを恐れ、ミス・ケントンとのラブロマンスを遠ざけてしまった。今回の旅を終えるまで、ずっと後悔していたのは、紛れもない事実です。>(http://drama-suki.com/hinonagori-gensaku)

<この小説の主人公は「信頼できない語り手」だ、という示唆によって氷解していくスリリングで痛快な瞬間。小説を読むことの面白さが凝縮された経験だった。
スティーブンスが「信頼できない語り手」であるという前提に立って、頭からこの小説を読み返してみると、他にも様々な読み方ができるということに気がつく。2度目に読んだ時には、1度目に読んだ時の感想や感じたことがグラグラする感覚を味わったが、それでもストレートに感動的な描写やセリフがあることがまた、この本を魅力的にしている。
最後に2つ、そのセリフを引用。1つ目は、「そっち側からは村の眺めが見事でしょう」(p300)というセリフ 。もう1つは、「私は選ばずに、信じたのです」 (p350)と告白する瞬間。本当に味わい深いセリフだ。これらのセリフに出会っただけでもこの小説を読んだ価値があった。>(http://mongoloidandoroid.hatenablog.com/entry/2013/08/06/072411>

「梅の開花に思うこと」(水沼文平)

このブログでも桜や桃に関しては書いたことがあるが(桃については2017年4月17日)、梅については、ふれたことはない。近所にあまりないのか、あっても地味で気が付かないのか。でもとても味わいの深い花であることが、水沼文平さんの指摘で知った。掲載させていただく(武内)

「梅の開花に思うこと」(水沼文平)

梅の開花は東京では1月中旬ですが、仙台でもひと月遅れで梅が咲き始めました。か
すかに甘い香りが漂ってきます。見頃は3月中旬になります。

子どもの頃大人たちが「桜切るバカ梅切らぬバカ」と言っているのを聞きましたが、
語呂合わせのような言葉だけが印象に残り、意味は理解していませんでした。ネット
で調べてみると「桜は切り口から腐りやすいので、剪定は避けるが、梅は切り口の回
復が早いので、かなり太い枝を切っても大丈夫、樹形を作るためには剪定は欠かせな
い」とありました。

梅は桜と異なり、開花期が長く、香りもよく、しかも6月には実をつけます。その実
は日本人には欠かせない「梅干し」や「梅酒」になります。

子どもの頃の記憶ですが、梅雨が明けて夏休みに入った頃、一旦塩漬けにした梅を庭
で茣蓙の上に並べ所謂「土用干し」の手伝いをしたのを覚えています。これまたネッ
トからの借用ですが「土用干しとは梅漬けを梅干しにするために三日三晩梅を干すこ
と。土用干しの効果は太陽の光と熱の殺菌作用、余分な水分を蒸発させ保存性を高め
る、日差しと夜露を交互に当てて皮と果肉を柔らかくする」とあります。

中国の三国時代ですが、曹操が南方の征伐に出向いた時、炎暑の中で行軍中、水もな
く兵は渇きに苦しみました。その時、曹操はとっさに、「この先に行けば、小梅の熟
した梅林がある」と偽り、行軍して行くうちに、兵は皆、口の中に唾が溜まり、喉の
渇きを癒すことができたという逸話があります。青梅を食べるとお腹を壊しますが、
曹操が言っている梅は「完熟」したもので酸っぱいプラムのような味がし、それを思
い浮かべれば、唾が自然に溢れ出るのは梅干しと同様です。

仙台には国指定の「臥龍梅(がりゅうばい)」という昭和17年に指定された天然記念
物の梅があります。和名は「チョウセンウメ」です。伊達政宗が隠居所として作った
若林城(現宮城刑務所)内にある名木です。政宗が文禄2(1593)年に朝鮮半島から
持ち帰ったと伝えられています。彼の漢詩に「海を越えておこなった戦が終わり、帰
国する日私は鎧の袖の中に梅の苗木をつつんで持って帰った」というものがありま
す。これが「臥龍梅」と言われています。政宗は梅をこよなく愛しました。

桜は武士のシンボルです。白虎隊士の飯沼貞吉は15才の時飯盛山で自刃しましたが瀕
死の状態ながら一婦人によって救助されます。
「日の御子の御かけあふぎて若桜ちりての後も春を知るらん」

これは大正13(1924)年に、当時皇太子だった昭和天皇が会津若松市の飯盛山にある白
虎隊士の墓を親拜したことに感激して飯沼貞吉が詠んだ歌で「白虎隊士の墓を親拝さ
れた日の御子(皇太子殿下)のお姿を仰いで、まだ若桜だった白虎隊士は、桜の花が散
る如く散華した後であっても、やっと春を知ったであらう」という意味です。

武士道は桜のように「ぱっと散る」ことを理想とし、年端も行かない白虎隊士を死に
追いやり、延いては特攻隊員まで死地に赴かせました。

一方梅は寒さに耐え花を咲かせ、かぐわしい香りを放ち、実をも豊かにつけます。こ
の梅に自分の生き方を重ね、梅をこよなく愛し、無謀な戦いを避け、部下の命を大切
にした政宗に私は深い共感を覚えます。(水沼文平)

(追加) 梅の花言葉Plum blossom
古くから日本人に愛されてきたウメの花。江戸時代以降の花見といえばサクラですが、奈良時代以前に「花」といえばウメのことでした。平安時代、菅原道真が愛した花としても知られ、道真とその神格化である学問の神、天神のシンボルとしてもウメが使用されます。
ウメ全般の花言葉は、「高潔」「忠実」「忍耐」 ※西洋での花言葉・英語 Language of flowers
「Keep your promise(約束を守る)」「fidelity(忠実)」「beauty and longevity(美と長寿)」
サクラとおもむきの異なる清らかな美しさをもつウメ。原産の中国から日本には薬用として渡来しましたが、万葉の時代にはすでに花を楽しむようになり、万葉集にはウメを詠んだ歌が118首もあるそうです。(http://rennai-meigen.com/umehanakotoba/)