「アプリ婚の時代」を読む

朝日新聞5月9日朝刊の耕論で、「アプリ婚の時代」というテーマで、3人識者がコメントを書いていた。なかなか興味深い内容だったので、そこで印象に残った部分を抜き出しておきたい。「恋愛への幻想は変わらない」「むしろ古い価値観を補強する」「結婚しないメリットに気がつく」というコメントに感心した。

 ■恋愛への幻想、変わらない 谷本奈穂(社会学者)― 恋愛と結婚の関係を大きな流れで見ると、近代以降、3段階に分かれます。第1は、戦前のイエ社会のもとでお見合い結婚が主流だった時代で、恋愛は必須ではありません。第2は、高度経済成長期に個人が相手を選べるようになり、恋愛の末に結婚するという「恋愛結婚」の時代です。 第3は、バブルがはじけ不況が続いた90年代からで、今は、恋愛はコスパもタイパも悪いという感覚がかなり広がっています。「恋愛は結婚に至る」とは考えない人が多くなっていった。結婚自体の必要を感じないという人も増えている。同時に、「結婚には恋愛感情が必要」(ロマンティック・マリッジ)と考える人が大半。現実の恋愛に冷めたまなざしが向けられるようになっている。しかし一方で、映画やマンガ、小説には相変わらず、「恋愛はすばらしい」と訴える言説があふれている。

 ■むしろ古い価値観を補強 阪井裕一郎(家族社会学者)―結婚の歴史を見ると、「正しい出会い方」は時代により変わってきた。仲人を立てるお見合い結婚が正当とされるようになった明治時代。戦後は、恋愛結婚が理想になり、お見合い結婚は個人の魅力がない証しではないかと恥じる人も出てきた。オンライン時代に、出会いの場がデジタルの領域に移行するのは不可逆的な現象。/新しい手段が、むしろ人々の古い価値観を補強する側面もある。マッチングには人工知能(AI)が使われるが、AIは個人が元々持つ要望や傾向に応じて情報を示す。そのため常識や社会通念を後押しする結果になりやすい。たとえば、男性の年収、女性の見た目を重視するような既存のジェンダー規範が補強されたり、年収や学歴といった「スペック」による序列が固定化されたりする。新しい仕組みを、多様なつながりを促すために利用することが課題。

 ■選べる条件、暴走する欲望 高橋勅徳(経営学者)- 婚活市場は今、巨大なデータベースとなっている。アプリに年齢、職業、年収、趣味、容姿などを入力し、結婚相手に望む条件を設定して、相手をピックアップする。欲望が暴走しはじめ、最初に設定したのは最低条件となり、それより下げようとはならなくなる。アプリは両刃の剣。欲望が際限なく増大すると、むしろ婚期が遅れるリスクが出てくる。一方で、選択にさらされる側は、価値が無力化してしまう。職場や日常的な人間関係を壊さないアプリ婚活は、スマートと言える。またデジタルネイティブの若い世代では、利用するのが当然。今の社会において、アプリは人間の本音を解放するツールと言える。アプリ婚で、女性は男性を選べるようになった。アプリ婚活でつらい目にあったことで、結婚をしないメリットに気がつく。結婚を諦めたら、趣味を充実させ、時間も自由に使える。