学生に勧める1冊の本

これまで仕事や趣味で多くの本を読んできたものからすると、1冊の本を勧めるのは難しい。これは全く私の好みになるが、小説で言えば、夏目漱石、古井由吉、村上春樹、評論で言えば吉本隆明、江藤淳、藤原新也、社会学で言えば作田啓一、上野千鶴子などの本がお勧めである。
ただ、これらの人の名前を全く知らない学生諸君も多いのではないか。こども学科の1年生の授業の中で、上野千鶴子の名前を知っている人を尋ねると皆無であった。氏はジェンダー研究では日本の第一人者であるし、社会学者としても優れ、マスコミにもよく登場する。それだけ、大学教師と学生の間には、世代ギャップもしくは好みのギャップがある。そのギャップを埋めるべく、1冊の本を勧めるのは難しい。
一言「右の誰かの本を1冊でも読んでほしい。どれも面白いはず」と言っておきたい。たとえば、江藤淳の『成熟と喪失“母”の崩壊』(講談社文芸文庫)を読んだ時の衝撃は忘れられない。日本の親子関係や日本文化に関していろいろ考えさせられた。その本の解説で、上野千鶴子は「涙なしでは読めなかった」と書いている。
そこで、今回は、1冊の本を勧めるのは諦め、私がグループのメンバーと一緒に書いた本をあげておきたい。本の題は、『キャンパスライフの今』(武内清編、玉川大学出版部、2003年、2100円)。
「授業、デート、アルバイト、サークル・・etc,データで読む平成版当世学生気質」「学生にとって大学は単に知識を習得する場であるだけではなく、さまざまな体験や出会いの場である。学生達は、授業、ゼミ活動、サークル活動、アルバイト、交友、異性交際、読書、情報行動などのよって、高校時代にはできなかった多種多様な体験や活動をし、社会性やアイデンティティを形成している」というのが、本の内容を紹介した帯の言葉。
大学のキャンパスライフの様子を19大学の学生2130名の回答から教育社会学的に考察したものである。学生諸君の今のキャンパスライフと突き合わせて読んでもらうと、キャンパスライフや自己分析に大いに役立つと思う。高校生が読めば、大学選びや大学生活への予備知識になる。「新入生の大学への適応」「大学生にとっての勉学の比重」「学生はなぜ授業中私語をするのか」「体育会系部とサークルの違い」「恋愛の大学デビューは可能か」「合ハイから合コンヘ」など、キャンパスライフを送る上で重要なテーマに関して、実証的なデータもまじえて考察し、キャンパスライフのあるべき姿を探っている。