内田樹「コロナ後の世界」を読む

内田樹のロングインタビュー「コロナ後の世界」が『月刊日本』に掲載された。その一部を、氏のブログから転載する。重要なことが、的確にまとめられていると感じる。

「コロナ禍が終息した後のアメリカの相対的な国威の低下と中国の相対的な国威の向上として帰結すると予測されます」「トランプは秋の大統領選までのことしか考えていないけれど、習近平はこれから5年先10年先の地政学的地位を見越して行動している」「米中の政治システムを比較してみると、まず中国は一党独裁で、血みどろの権力闘争に勝ち残った人間がトップになる。実力主義の競争ですから、無能な人間がトップになることはまずない。それに対してアメリカの有権者は必ずしも有能な統治者を求めていない。自分たちと知性・徳性において同程度の人間に親近感を覚える。だからトランプのような愚鈍で徳性に欠けた人間が大統領に選ばれるリスクがある。」「少なくとも現時点では、アメリカン・デモクラシーよりも、中国的独裁制の方が成功しているように見える。欧州や日本でも、コロナに懲りて、『民主制を制限すべきだ』と言い出す人が必ず出てきます。」

「(なぜ日本は失敗したのですか。)為政者が無能だったということに尽きます。それは総理会見を見れば一目瞭然です。これだけ危機的状況にあるなかで、安倍首相は官僚の書いた作文を読み上げることしかできない。自分の言葉で、現状を説明し、方針を語り、国民に協力を求めるということができない。」「感染症対策として、やるべきことは一つしかありません。他国の成功例を模倣し、失敗例を回避する、これだけです。中国や台湾、韓国の前例に学ぶ時間的余裕はあったんです。しかし、政府はそれをしなかった。一つには、東京オリンピックを予定通り開催したいという願望に取り憑かれていたからです。そのために「日本では感染は広がっていない。防疫体制も完璧で、すべてはアンダーコントロールだ」と言い続ける必要があった。だから、検査もしなかったし、感染拡大に備えた医療資源の確保も病床の増設もしなかった。」

「もう一つの理由は安倍政権が「イデオロギー政権」だからです。たとえ有効であることがわかっていても、中国や韓国や台湾の成功例は模倣したくない。「誰」が出した案であるかが問題なのです。ふだん敵視し、見下しているものたちのやることは絶対に模倣しない。国民の生命よりも自分のイデオロギーの無謬性方が優先するのです。」

「「安倍政権においては、主観的願望が客観的情勢判断を代行する。「そうであって欲しい」という祈願が自動的に「そうである」という事実として物質化する。」「森友・加計・桜を見る会と、どの事案でも、首相が「そんなものはない」と宣告した公文書はいつのまにか消滅するし、その全能感に慣れ切ってしまったのでしょう、「感染は拡大しない。すぐに終息する」と自分が言いさえすれば、それがそのまま現実になると半ば信じてしまった。」

「コロナ終息後、自民党は「憲法のせいで必要な施策が実行できなかった」と総括すると思います。」「コロナ対応に失敗したのは、国民の基本的人権に配慮し過ぎたせいだ」と言って、自分たちの失敗の責任を憲法の瑕疵に転嫁しようとする。コロナ後には「すべて憲法のせい」「民主制は非効率だ」という言説が必ず湧き出てきます。」

「コロナ禍がもたらした最大の社会的影響は「中間層の没落」が決定づけられたということでしょう。このままゆくと、日本社会は「一握りの富裕層」と「圧倒的多数の貧困層」に二極化する。それは亡国のシナリオです」「階層の二極化が進行すれば、ネポティズム(縁故主義)がはびこり、わずかな国富を少数の支配階層が排他的に独占するという政体になるだろうと思います。」

「確かに短期的なスパンで見れば、中国のような独裁国家のほうが効率的に運営されているように見えます。民主主義は合意形成に時間がかかるし、作業効率が悪い。でも、長期的には民主的な国家のほうがよいものなんです。「コロナ以後」の日本で民主主義を守るためには、私たち一人ひとりが「大人」に、でき得るならば「紳士」にならなけらばならない。」

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