教育社会学会参加記(その4)-学力と社会的格差の研究

馬居政幸氏(静岡大学名誉教授)・西本裕輝氏(琉球大学)の発表(「沖縄における離島と本島間の学力格差―学力調査が及ぼした影響に焦点をあてて」は、教育社会学の主流の「学力と階層格差」論への批判を含んでおり、興味深いものであった。

馬居氏は、次のようにも鋭く指摘している。
「学校の授業過程で生じている事象への実証調査は、教科教育の世界との格闘がなければ、実態とのせめぎ合いにならない」「教育(社会)学的視点から論ずる学力観”と”教科教育が前提とする学力観”は似て非なるもので、二つの集合は重ならない部分が大きい」「教育社会学だけでなく、教育研究者のなかに、学校現場での指導案作りや発問、板書、見取り、声掛け、机間巡視などの基本ワードの機能を実証的に検証する研究どころか、その必要性の自覚すらなかったのでは(ないか)」「欧米の研究調査報告での内容を日本に適用することはあっても、その妥当性を日本の学校教育の現場に即して検証する試みがどれだけ重ねられたでしょうか。」「貧困ファクターでは、地域間格差を説明することはできません」 (いただいたメールより転載)
 
馬居氏の当日配布レジメに加筆修正したものは公開可ということなので、下記に添付する。
学校の中で起こっていることをブラックボックスにするのではなく、カリキュラムや教師の教科指導の仕方まで、実証的に検証しようとする馬居氏らの研究は、学力と社会的格差研究に大きな一石を投じるものになるであろう。

③171022馬居発表後加筆PPT×2pdf

教育社会学会参加記(その3)

私たちの「大学生文化研究会」からは、浜島幸司氏(同志社大学)が、『「部・サークル活動」からみる大学生文化の特質』と題して、大学生の4時点の学生調査のデータを、詳細に分析し報告した。
大学改革で授業重視が提唱されても、多くの学生たちは「部・サークル活動」に参加し、学生生活のなかでそれらの活動比重も低下することはない(60%前後)。部・サークルの活動状態で交友面、大学満足など変わる。「部・サークル活動」への関わりは、インフォーマルながらも、キャンパスライフを充実へと導く機能がある、という趣旨である。

今の大学改革が、学生の意識や文化とずれていることなどが明らかにし、学生の実態に即した改革への提案をしている。(当日配布レジメは下記)

2017[印刷配付版]教育社会学会報告スライド(浜島・武内)

教育社会学会参加記(その2)ー社会関係資本を獲得する場としての学校

古賀正義氏(中央大学)の発表『偏位する「社会的孤立」-内閣府若者WEB調査の分析から』を興味深く聞かせてもらった。
「ある場で関係から資源を獲得したいとする者は、担い手の供給する財(例えば、情報や技能など)を道具的に直接獲得するだけでなく、表出的な関係の維持によって、承認をえたり感情を交わしたりをしてそれを支えもする。この二重の過程こそ、資本の形成・獲得に多くの影響を与える。」
『ネットワークの場(例えば、サークル活動)への若者の参加が単純に社会関係資本の供給を促すというのではない。その場での同じ問題を抱えたもの同士の「同類的な関係」と指導者や相談者・ボランティアといった「異質な関係」との、相補的な関係性があって、社会関係資本をえることが可能になる.それゆえ、実際にはこの両者のバランスから、当事者に、場やその関係の選択が生じてくることになる』
「若者には、とりわけ家族(配偶者を含む)・学校を介した友人、地域の友だちの3種類の他者との接触が多くなっている」(配布発表レジメより転載)

古賀氏の発表は、社会関係資本やネットワーク論を使っての現代の若者の生活充実度や社会的孤立を防ぐ手立ての考察であり、いろいろ示唆される点が多い。

私が一番興味をもったのは、現代の若者が持続的な関係をもつものが「家族」に次いで、「学校を介しての友人」ということである。
学校という知識や技能の伝達・教育を主たる目的としている場で、友人関係は副次的な産物と考えられる場で、副次的なものが大きな意味(社会関係資本)をもつこと。学校は教師という仲間とは異質な存在があるからこそ、仲間だけからでは得られないもの(社会関係資本)が獲得できるということのメカニズムである。
これは学校の機能とも、また学校の潜在的カリキュラムということもできるが、学校が社会関係資本を獲得する場として機能しているという、重要な指摘だと思った。

『「同類的な関係」と「異質な関係」との、相補的な関係性があって、社会関係資本をえることが可能になる』ということからは、抽象的にいうと「横糸だけではなく縦糸があることにより何でも強くなる」ということかと思った。
たとえば、友人関係(横糸)も学校や教師(縦糸)があることにより強固になるので、街で友人を探しても見つからないということかと思った。学校や大学へ友人を探しに行くのは意味があることかもしれない。

台風と落ち葉

台風の怖さは場所によって違うかもしれない。
「近年にない最大級の台風の到来」というニュースが流れ、それ以上の被害になるところもあれば、雨風もたいしたことないところもある。後者の場合は幸いであったと喜べばいいのだが、近頃の災害予告のニュースは大げさなのではないかと、ニュースへの不信感も芽生える。
今週のはじめの台風も、関東は多少の雨と風だけでたいしたことはなくほっとした。家の周りの落ち葉を集め、その風情を楽しむ。

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日本教育社会学会69回大会参加記(その1)

以前にも書いたが、人によって学会への参加の姿勢は違う。
①日頃の研究の成果の発表の場と考える人、②自分の専門分野の情報を集めようとする人、③最先端の分野を学ぼうとする人、④質問や議論を楽しむ人、⑤司会を頼まれたので参加する人、⑥かっての師弟関係で集まるため、⑦知り合いとの再会を楽しむため、⑧旅行のついでに参加する人、などいろいろである。
日本教育社会学会69回大会が開催された一橋大学は、なかなか風格のある素敵なたたずまいの大学、教室で、このようなところで教えたり学んだりできる教員や学生は幸せだと思った。
大会は2日とも大雨の中での開催であったが、多くの人が参加し、いい発表があり、活発な議論が交わされていたように思う。
私の世代より上の参加は少なかったが、若い人が密度の濃い発表と的確な質問をして、学会の未来に期待が持てた。
私が聞いた中では、大御所の有本章先生や馬居政幸氏の発表も広い高い見識にもとづく発表で教えられるところが多くあった。
課題研究Ⅲ<「子どもの自殺」をどう考えるか>は、言説研究や構築主義の立場からの高レベルの発表が元森絵里子氏や北沢毅らかあり、学ぶところが多かった。
今回はいつも見る先輩や同期に近い人の参加が少なく、少しさびしい思いをしたが、それでも藤田英典氏、久富善之氏、住田正樹氏という同期や,先輩の牧野暢男氏とも話ができ、いろいろな知り合いと再会でき、有意義な2日間であった。
その他、学んだことは、この後、記録に残しておきたいと思う.

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